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英のはしか流行、ワクチン問題視した15年前の論文に翻弄されて

 アリシア・ジェンキンズさんの耳の後ろに特徴的な発疹が現れたとき、祖母のマーガレット・マグフォード さんは自分が15年前に下した決断がその原因であることにすぐに気づいた。

 ジェンキンズさんが乳児だった1998年当時、ウェールズ南西部に位置するこの地域は、はしかとおたふく風邪、風疹の3種混合ワクチン(MMR)への抵抗が特に強かった。英国人医師アンドリュー・ウェイクフィールド氏がこのワクチンが自閉症を引き起こす恐れがあると示唆すると、地元紙がさかんに書き立てて、多くの親が子どもにこのワクチンの接種を受けさせなかった。この主張の誤りが証明されたあとも、抵抗は続いた。


 そのつけを払うときがやってきた。

 はしかが流行したのだ。ウェールズ南西部では昨年11月から今年7月初旬にかけて、1219人がはしかに感染した。2011年のウェールズ地方全体のはしかの感染者数は105人だった。

 感染者の1人がジェンキンズさんだ。保護者である祖母のマグフォードさんはジェンキンズさんが子どもの頃、予防接種を受けさせなかった。「自閉症が怖かった。新聞でもテレビでも報道していたから」と63歳のマグフォードさんは語った。

 はしかの流行はこの地域だけの問題ではない。簡単に海を渡って、発生が抑えられている地域に広がってしまうからだ。米国は2000年までに事実上、国内での新たな発生を排除することができたが、旅行者が国内にウイルスを持ち込むため、小規模な発生は続いている。ニューヨーク市の保健当局者が今春、ブルックリン地区で発生したはしかの発生源を調べたところ、ロンドンで感染したとみられる人物に行き着いた。

 「予防接種は人間が発明した健康対策の中で最も優れたもののひとつなのに、予防接種そのものに反対する人が少数ながらまだ残っているようだ」とウェールズの医師で最近はしかにかかった患者の多くを治療しているダイ・ロイド氏は指摘している。「墓地を一周してみれば、予防接種がなかった時代にいかに多くの子どもが亡くなったかがわかる」

 はしかの発生は途上国に多い。しかし、はしか根絶運動の旗振り役だった国の中でも再びはしかに悩まされている国もある。フランスは2007年には根絶に近い状態にあったが、2008年から2011年までの間に2万人以上が感染した。欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、ワクチンに対する思想的な反発がはしかの発生につながったという。

 自閉症との関連で、はしかのワクチンが不安視されるきっかけになったのはウェイクフィールド医師だ。同医師は当時、ロンドンのロイヤル・フリー・ホスピタルの研究者で、ワクチンと自閉症は関係している可能性があるという同医師の指摘は1997年に報道され始めた。

 1998年には同医師の論文が医学誌「ランセット」に掲載された。

 医学の専門家はすぐさま保護者に対して、この研究が不完全で憶測に基づくものであるとの見解を示して警告した。ワクチンと自閉症の関連を示す証拠はないとも説明した。米医学研究所(IOM)が2004年にこの研究を再検討し、MMRワクチンが自閉症を引き起こす証拠はないとするなど、複数の研究によって博士の研究の誤りが証明された。

 英国の医事委員会(GMC)がウェイクフィールド医師の研究を「無責任で不誠実」との結論を下すと、ランセットは2010年、同医師の論文を撤回した。GMCはこの年、同医師が「職業上、深刻な不正行為」を働いたとして、医師免許をはく奪した。

 ウェイクフィールド氏は当時を振り返り、MMRワクチンの安全性には疑問を持ったが、保護者には、はしか単体のワクチンは継続するように強く勧めたと話す。今でも「MMRははしかには効かない」と主張し、他の科学者は全く異なる結論に達しているにもかかわらず、自説は曲げないと語った。

 米国では、MMRワクチンに批判的な人々の反対運動が続いた。ワクチン全般に懐疑的な人々もこれに加わった。プレイボーイの元モデルで女優のジェニー・マッカーシーさんもその1人だ。マッカーシーさんはABCのトークショー「ザ・ビュー」の司会者に抜擢されている。数年前にテレビのインタビューで自分の息子の自閉症は予防接種と関係があると語り、ワクチン反対運動のリーダーになった。マッカーシーさんの広報担当者にコメントを求めたが回答を得ることはできなかった。マッカーシーさんはウェイクフィールド氏が2010年に出版した本に序文を寄せている。

 しかし、ウェールズ南西部以上に疑わしい研究やセンセーショナルな新聞の見出し、子どもを心配する親心にほんろうされた地域はない。1997年にウェイクフィールド氏の研究が英国の全国メディアで盛んに取り上げられると、ポート・タルボットに住む母親ジャッキー・エクトンさんはサウス・ウェールズ・イブニング・ポストに電話をかけた。

 1997年の記事によると、エクトンさんの3歳の息子ダニエル君はもともと自閉症と診断されていたが、予防接種を受けたところ、ぼんやりして口を利かなくなったという。エクトンさんがグループを作ってこの問題に取り組みたいと話すと、数日で二十数人の子供の親が集まり、予防接種に欠陥があったかどうかを調査するよう求めた。

 保健当局は保護者に対してワクチンには何の問題もないと伝えたが、英国には学校に入学するための条件として予防接種を義務付けてはいない。

 予防接種に対する反発は何年も続いた。5歳と6歳の息子を持つハナ・ウィリアムズさん(31)は自閉症が怖くて息子にMMRワクチンの予防接種を受けさせなかった。ウィリアムズさんによると、甥が予防接種を受けて自閉症を発症したため、夫と相談して危険は冒さないと決めたという。ウィリアムズさんは小児科医から予防接種を受けるように何度も勧められたが、断った。

 ワクチンの接種率が落ちてからはしかが発生するまでには何年という時間がかかることがある。ウェールズの医師の報告では、1999年から2008年までは年間の感染数は104~223例で、2009年に567例に増えたあと、2010年には117例に減少した。

 ところが2012年11月になると、医師らは感染者数が著しく増加していることに気づき始めた。1週間に数十例も新たな感染が報告され、当局ははしかの流行を宣言した。

 流行地域の公衆衛生のディレクターのサラ・ヘイズ氏によると、感染した子どもの約10%が重度の脱水や肺炎などの合併症で入院治療を受けた。感染者のほとんどが回復したが、ウェールズの保健当局によると、25歳の男性ははしかに関連した肺炎で死亡した。

 今年4月、数千人もの子どもたちが予防接種を受けた。冒頭に紹介したジェンキンズさんもその1人だが、遅すぎた。予防接種を受けた直後に発疹を見つけたそうだ。はしかがひどくなり病院にかかる必要があったが、回復したという。

 ウェイクフィールド氏は2005年に米国のテキサス州オースティンに移り、自閉症の研究と治療を行う施設の設立に関わった。医師免許が剥奪されると、2010年にこの施設を退いた。同氏によると、現在はオースティンにあるビデオ製作会社の経営を手伝っているという。

 サウス・ウェールズ・イブニング・ポストの現在の編集長のジョナサン・ロバーツ氏は今年4月、社説にこう書いた。「1990年代半ばにはMMRワクチンに関する懸念があったことは明らかであり、同紙はそれについて十分かつ責任ある報道を行った」。ロバート氏はこの社説に付け加えることはないと話している

 ウェールズは今月3日、はしかの流行宣言を解除した。しかし、1990年後半に高まった不安の余波はまだ続く可能性がある。英国の保健当局によると、近年、おたふく風邪が急増したのはMMRワクチンの接種率の低下によるものだという。

 だが予防接種への抵抗は根強く残っている。ウェールズ地方で遅れて予防接種を子どもに受けさせた保護者の中にもいまだにMMRワクチンを疑っている人もいる。

 保護者によるグループの結成を呼び掛けたエクトンさんは今でも息子がMMRワクチンの被害を受けたと考えていると話す。ダニエル君は現在18歳で、重度の自閉症だという。

 「私は自分の息子に起きたことを見ていたひとりの親にすぎない。そのことで申し訳なく思うたびに、つらくてたまらなくなる」。


http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323689904578619712364812812.html

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